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現場

昔々、タレント時代の話である。
「ひろさんワンシーンなんですが、とても重要な役なので」これが私の芸能界での当時のポジションだった。芸能界なんて楽なほうがいい。ワンシーンで結構。
TBSの「7人の刑事」。今の若い方には全然おわかりでないだろう。
その日のゲスト主演は、内田裕也と沢田研二だった。おおー、なんてロックな配役。
テレビの台本なんて全く読まない。自分のとこだけ読んでどうせワンシーンだから現場で覚える。帰りに台本は捨てちまう。今思えばもったいないことしたような気もするが。
NHKはまず本読みがあって軽いリハがある。民放は衣装合わせしてメークしていきなり本番。これも楽でいい。
ワンシーン役者の私にも、一応重要な役らしく一人部屋の楽屋が与えられた。ラッキー。寝っ転がって待ってればADが呼びに来る。
楽屋はプレハブの小部屋みたいなものだ。隣の声がまる聞こえ。隣はなんと内田裕也様だった。
いきなり壁をぼかぼか殴る音。足で蹴っているのか薄いしきりがびりびり震える。どすどすわお!
何事か!?どなり声。凄まじい。「ばかやろう!俺は内田裕也だ!ロックンローラーだ!芦田伸介は新劇のトップかなんか知らねえが、俺はロックの頂点だ!」
「まあまあまあまあ」ディレクターが必死でなだめている様子が手に取るように分かる。帰られちまったらおしまいだ。
オッと。今日はおもしれえぞ。私はわくわくして聞き耳を立てている。
何分か続きやっと静かになる。
内田裕也様もふてくされて何とかやる気になったのか。
つまんないの。もっと暴れりゃいいのに。中止になればいいのに。がっかり。
現場ボイコットしたほうがロックンロールしてたのにい。
嫌ーな雰囲気の現場なんだろうな。それだけは勘弁。
幸い私は内田裕也との絡みのシーンはなかった。というよりは誰とも絡まなかった。
沢田研二の情婦のような役で、彼のアリバイ証言をするだけ。
でも沢田研二様は拝顔した。
内田裕也の例のどたばたもどこ吹く風。自分の役作りに励んでいらっしゃる。
2枚目で小柄。色気たっぷり。スリム。
自分の衣装のジャンパーを自前で持っていらしていて、監督と穏やかに打ち合わせをしていた。
この騒ぎの中、さすが大物だ。
こんな芸能界にいるのも悪くないと思ったが、弱小プロダクションだったので、日活ロマンポルノに出れば仕事はいくらでもあるが、どうすると言われた。
それであっさり断った。
小杉武久のパフォーマンスでイレブンPMでは脱いだことはあるが、裸で男とアヘアへするのにはさすがに抵抗があった。そんなわけで、芸能界からはおさらばした。
今だったら、ばあさんの役で出て差し上げますわよ。
アングラの臭い芝居なんかしちゃってね。

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ワタナベ

アングラ女優一代記。
ううむ、おもしれえ。
ブログの時代を痛感。
こんなおもしれえブログがあるんだもの、
寝れないね。
このブログ読まずに死ねるか、なんてね。
年代順でかいてくださいませのことよ。
by ワタナベ (2008-09-26 16:33) 

NOBUCHAN

ありがとうございます。年代順に書きまくって本にしちゃいましょうか。
by NOBUCHAN (2008-09-26 16:43) 

aruaru

いいですねえ!本にしちゃいましょ!
by aruaru (2008-09-26 21:19) 

NOBUCHAN

てへっ 豚もおだてりゃ木に登りですよ!
芝居やりたい気持ちが今、書かせてるような気がします。
by NOBUCHAN (2008-09-26 21:42) 

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