わたしの春は
三月の始まり
気温10度の真夜中
ガスストーブを弱く点ける
春の始まり
しかし私の青い春はもう来ない
いくつの季節を経験したのだろう
68回
68回の春夏秋冬が巡った
確かな春を激しく生きた
恋愛も失恋も演劇も音楽も言葉も感情も激しく青くそれは確かな春だった
青かった 青さを武器にした 私は美しかった 柔らかかった しなやかだった
夏は汗と情熱に漲った
降り注ぐ太陽に抗った 負けることはなかった
熱さが私の背中を押した 強く逞しかった
精神が崩壊しても戦う情熱は炎のように燃えていた
美しかった 強かった 怖いものはなかった 熟れ切った果実だった
秋は静かに勉強した
少しだけ青い春と暑い夏を振り返りつつ新しい世界に静かに挑戦した
疲れということを少し意識した しかし鋼のように跳ね返す弾力は持っていた
春と夏とは違う世界で肉体は紅葉したがまだ枯れはしなかった
歳を重ねて大人になることを楽しんだ
そして冬
今こそ冬の季節
体は朽ち次の春はもう永遠に来ることはない
過ぎたのだから 過ごして来たのだから
後悔なぞ一つもしていない
春も夏も秋も精一杯生きたのだから
今できること 年老いた私に出来ること を 緩やかに考えている
気負いはない だが まだ為すべきことは少しだけ残っているような気がする
正直体はもうついてこない しかし頭は清明だ
気負うことはない
年老いた私 二度と来ない春
確実に待っているのは死
怖くはない いつでも受け入れる準備は出来ている
まだ為すべきことはある
年老いたからこそ出来る事
私の刃は今だ挑戦的だ