未来の手前
夕方玄関の薄暗がりで鏡を見た。疲れた顔のおばさんがそこにいた。あ わたし。
カウンセリングをきっちり済ませ、クライアントは笑顔で帰った。トイレの鏡をのぞいてみた。一仕事終えて余裕の顔がそこに映った。あ わたし。
電車の窓に映ってた。これからお店に出勤のママの顔。今日も元気に働きます。静かに燃えてる目が涼しい。あ わたし。
冷たいキツネそばを食べる。甘辛の油揚げではなく、こんがり焼いた油揚げ。さっぱりしていておいしい。喫茶店でアイスコーヒーを飲む。準備は全部できました。後はお店のカギをカチリと開けて看板のスイッチを入れる。同時にたつ子とシェリーとエミリーが来た。落ち着いて客を迎えるママの顔。あ わたし。
昔、クラクラに通ってくれていたカメラマンの小野が27歳の私の写真を持ってくる。あ わたし。
世間様をなめきっている小娘。なんでも来いの小娘。目つきはスケバン。あ わたし。
偉そうだぜ。怖いもんなしだぜ。若い若い若いあおい。あ わたし。
今日は金曜日だし、仕事もあと一日。ほっといい顔の朝の匂い。あ わたし。
シャッターが全部閉まっている商店街を通り抜け家に着く。空がだんだん明るくなる。いつも始発で出会うおかまさんのことを思い出す。大きなお姉さん。引きこもりの少年が散歩している。急ぎ足で。黒ネコにあいさつする。あ わたし。
うちの猫にご飯をあげる。きれいな水にとりかえる。お腹はすいていないから、ヨーグルトだけ食べて寝よう。朝7時。長い一日が終わってくつろいでいる。みんなくつろぐ。ゴミ捨てる。あ わたし。
(ああ 過ぎ去った日は何時もむごい 思いでこそは わが地獄!)
寺山さんはそう言ってるけど今日の気分は真反対。あ わたし。
いつも拝読しています。
by ワタナベ (2009-08-22 10:57)
いつもありがとうございます。うれしい限りです。
by NOBUCHAN (2009-08-22 14:49)